症状や原因によって治療内容が異なります
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は骨格や体型的な特徴から起こりやすい疾患です。症状によっては治療に長い時間がかかることもあります。
治療法としては、症状を緩和させながら生活習慣の改善を図っていく対症療法と、睡眠時無呼吸症候群の原因を外科的に取り除く根本療法があります。いずれも患者さんの状態を詳しく検査した後に適切な治療法が選択されます。
睡眠時無呼吸症候群は重症になると心不全や脳卒中などの重篤な合併症を引き起こすこともあります。また、日中に眠気を催す症状は、車の運転や危険物を扱う仕事に従事する方にとっては大変なリスクです。睡眠時無呼吸症候群は早期の治療が不可欠です
治療とともに生活習慣の改善も大切です。とくに肥満は大敵です。規則正しく偏りのない食事を心がけるとともに、適度な運動で適正体重を維持することが治療の重要な柱となります。
また、脂肪の減量とともに、鼻の疾患の治療も大切です。鼻がつまっていると口呼吸になりがちです。これが睡眠時無呼吸症候群を悪化させる原因となっていることもあります。
治療方法について
睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療法にはCPAP療法、マウスピース、外科的手術があります。
CPAP療法
睡眠時に鼻に装着したマスクとエアチューブで上気道に空気を送り続けることで、気道を開いたままにしておく装置を使う治療法です。いびきの治療や睡眠時無呼吸症候群の閉塞性タイプの治療では欧米や日本でもっとも普及した治療法です。装置は医療機関からレンタルして使用するのが一般的です。
マウスピース
かみ合わせることで下あごを前方に固定するマウスピースを着用し、狭くなった上気道を広げます。これによっていびきや無呼吸を抑制します。患者さんに合わせてオーダーメイドします。就寝時に装着して寝ます。中等症までの閉塞性無呼吸タイプに効果的だといわれていますが、重症の方には効果があまり見られないともいわれています。
外科的手術
アデノイド(咽頭扁桃)肥大や口蓋扁桃肥大によって上気道の狭窄・閉塞が起こっているケースでは、これらを摘出することで睡眠時無呼吸症候群が改善することが期待できます。
軟口蓋(口腔を鼻腔と隔てる壁。)の一部を切除するUPPP手術もありますが、治療効果が不確かな上、数年後には治療部位の傷跡によって症状が再発することがあるといわれています。
海外では、上気道を拡げる目的で上あごや下あごを拡げる手術もあります。
治療に関するQ&A
1. 睡眠時無呼吸症候群って治るんですか?
1. 重症度、原因によって治療法が異なってきますが、治療で症状をコントロールすることはできます。治療法には対症療法と外科的根本治療があります。対症療法では生活習慣の改善も大切になってきます。
2. 治療でいびきや眠気はなくなりますか?
2. 治療によって気道が塞がること、狭くなることがなくなれば、いびきは改善が期待できます。眠気は、治療で睡眠の質が改善されても量が足りなければ改善されないケースもあります。規則正しい食事や睡眠など、生活習慣の改善も必要になってきます。
3. 治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
3. 重症度や原因、対症療法か外科的根本治療かという治療法の選択によって大きく個人差があります。対処療法では症状を抑えつつ体質改善にまで踏み込む必要があるケースもあって、慎重にしかし長期にわたって病気とつきあう必要があるケースもあります。外科的療法が可能なケースでは手術をして治療が終了することもあります。
4. 受診後すぐに治療を始められますか?
4. 問診後に簡易検査を受けていただく必要があります。検査の結果次第ですぐに治療をはじめるか、さらに詳しい精密検査による診断確定が必要かを判断します。どちらの検査も結果が出るまでに1週間ほどかかります。
5. 機械をつないで眠る治療は避けたいのですが、ほかに方法はありますか?
5. マスクとエアチューブを装着するCPAP療法はもっとも普及した治療法ですが、機械につながれて眠る不自由さを訴える方もらっしゃいます。
軽症のSASであればマウスピースを使用する治療法もありますが、中等症以上ではあまり効果が期待できないといわれています。また、歯周病などのトラブルを抱えた方、入れ歯を利用されている方の場合、適用できないこともあります。
一方、CPAP療法であっても鼻詰まりなどのトラブルを抱えていらっしゃる方ではうまく機能しないケースもあります。
いずれにしろ、ご自身の希望を医師に伝えていただいて、よく相談してみてください。
6. 痩せることで睡眠時無呼吸症候群は治りますか?
6. 首、のど回りの脂肪が増えて上気道を塞いでいるケースでは、痩せて脂肪をなくすことで症状が改善することが期待できます。ただし、その他の原因が複合的に症状を促進しているケースや中枢性睡眠時無呼吸タイプの場合には、減量してもほとんど効果が見られないことがあります。
7. 治療にはどのくらいの費用がかかりますか? 健康保険は適用されますか?
7. 睡眠時無呼吸症候群と診断された場合、検査も治療も健康保険の適用を受けられます。もっとも一般的なCPAP治療の場合、治療費は月4,500円程度です(3割負担)。
マウスピースについては一定条件の下で健康保険適用となります。適用除外基準などがありますので、直接医師に確認してください。
外科手術については手術内容によって費用も変わりますので、事前に医師に確認しておきましょう。
8. 薬や手術で治せますか?
8. 薬や手術の適用については患者さん一人一人の状況次第です。担当医とよく相談してください。
9. 骨格に原因があっても治せますか?
9. 小顎症が原因の睡眠時無呼吸症候群のケースでは、手術で症状が改善することもあります。ただ骨格だけが原因なのかどうか、慎重に見極める必要があります。専門医とよく相談してください。
10. 治療において日常生活で気をつけるべきことはありますか?
10. 睡眠時無呼吸症候群は脂肪や組織の肥大によって上気道が塞がるなど、肥満(生活習慣病)との関連が強く疑われています。規則正しく偏りのない食事、適度な運動、禁煙など生活習慣病を予防することは睡眠時無呼吸症候群の予防につながります。そして、適正体重を保持すること、飲酒(とくに習慣的な寝酒)は控えることに気をつけましょう。睡眠薬も睡眠時無呼吸症候群に悪影響を与えることがあります。睡眠薬の服用については医師とよく相談してください。
11. 睡眠時無呼吸症候群の手術治療後しばらく経って、いびきと無呼吸が再開しはじめました。手術後に再発することがあるのでしょうか?
11. 再発の可能性は否定できません。手術前に狭窄・閉塞が起こっていたのとは別の箇所に新たな狭窄・閉塞が起きることもあります。
12. 昼間の眠気をなんとかしたいですが、検査の結果、今すぐに治療するほどではないといわれました。
12. 精密検査などで睡眠時無呼吸症候群としては問題なかったとしても、別の病気からくる眠気なのかもしれません。眠気を催す病気は身体的なものだけではありません。精神的な原因から昼間の眠気が生じているのかもしません。睡眠外来や精神科などで専門医にご相談ください。
13. CPAP治療は毎晩行わなければなりませんか?
13. CPAP装置は対症的に症状を抑えていますので、できる限り毎晩装着することをおすすめします。装着しない場合、無呼吸状態が発生するリスクが高くなります。出張などを気にかけていらっしゃる方も多いと思います。CPAP装置はカバンに入れて持ち運びできるサイズのものが多くありますので、お出かけ先でも使用されることをおすすめします。
14. 就寝中はずっとCPAP装置を装着している必要がありますか?
14. 就寝中はずっと装着していることが望ましいです。慣れないうちは外してしまいがちですが、治療効果を考慮すれば1晩に4、5時間程度の装着が望ましいといえます。
15. CPAP装置は購入するんですか?
15. 日本の医療保険制度ではレンタルが一般的な取り扱いです。マスクやエアチューブは消耗品ですが、これらは医療機関や在宅医療会社が供給します。健康保険が適応されますから、患者様が費用を負担することはなく、患者様にかかる費用は月1回の診療費のみとなっています。
16. CPAP装置の機械音が家族の就寝の邪魔になりませんか?
16. 家庭内で就寝時に使用するという機械の特性上、静音設計に配慮がなされていますが、音の感じ方には個人差がありますので、問題ないとは言い切れません。ただ多くのケースで、いびきの音よりずっと静かだと感じるようです。
17. CPAP治療でマウスをつけたり、一晩中空気が送り込まれたりしていて、気にならずに眠れるものでしょうか?
17. 違和感なく眠れるためにはフィッティングと空気圧調整が大事です。慣れないうちは空気の圧力やマスクが気になるものですが、きちんとしたフィッティングが行われていれば慣れてきます。気になる部分があるうちはこまめに主治医に相談して改善してもらってください。タイトレーションといって、治療開始時に1泊の入院で患者さんに合った機器の設定を行うこともできます。
18. 就寝中ずっとマスクを着けていて、顔の皮膚や鼻に異常は生じませんか?
18. マスクのフィッティングがうまくいっていない場合、顔の皮膚が赤くなったり、鼻が乾きやすくなったり、空気が漏れて目が乾いてしまったりするケースもあります。患者さんそれぞれに適切にフィットするマスクを選択することが大事です。また、鼻と耳は耳管でつながっているため、空気が耳に抜けて不快感を感じることもあります。この場合には空気圧の設定を調整するなどの対処をしてもらってください。
19. CPAP治療の効果は直ぐに出ますか?
19. 上気道が塞がらないように空気を送り込む治療ですので、すぐに効果を実感して熟睡できたと感じる方もいれば、なかなか効果を実感できないと感じるか違います。治療の目的は無呼吸状態を回避して、体も脳も十分に休むことができる質のいい睡眠を得ることです。睡眠の質は実感できないことも多いので、主治医とともに根気強く病気とつきあっていく覚悟が必要です。
20. CPAP装置が息苦しくて、マスクを装着していられません。
20. 空気圧が適正でないか、マスクのフィッティングが不十分である可能性があります。主治医に相談してみてください。また、患者さん自身に鼻づまりやアレルギー、花粉症などがある場合には、鼻の症状を薬でコントロールした方がいい場合もあります。これも主治医に相談してみてください。CPAP治療は長期間の治療になることが予想されます。少しでも不快感をなくすことはたいへん重要です。マスクの装着方法を確かめ、もしも合わないときには遠慮なく申し出ていただいて、別の種類のマスクを試すことも大切な治療の一環です。
21. 無呼吸の症状を和らげる方法はありますか?
21. 横向きで眠ることで、脂肪や肥大した組織の上気道への落ち込みを緩和することができます。抱き枕などを上手に利用して、横向きで眠る工夫をしてみてはいかがでしょう。