いびきについて
「お父さんのいびき、うるさいなあ」といって家族が鼻をつまんで家族で笑う…なんて、昭和のホームドラマのワンシーンにありそうですが、いまやいびきは「うるさくて迷惑」なものから「病気のリスクの兆候」へと認識が変わりつつあります。
家族に迷惑をかけるから何とかしたいと医師に相談する方も増えてきていますが、一方で、いびきの背後に潜む病気について知られるようになってきたことで、病気を疑って受診する人も増えてきています。
いびきがうるさくて鼻をつままれたお父さんには、いびきの自覚がほとんどありません。「おお、またいびきをかいていたか?」といった程度で、自分のいびきに自分で気づくことはほとんどありません。どんないびきを、どんな時に、どんな姿勢でかいているのか、いびきについて具体的なことを検査して把握しておくことは、背後に潜んでいるかもしれないさまざまな病気への対処として大切です。
いびきの種類
いびきにも種類があります。
普段はかかないけれど、疲れたときや飲酒の後にかくいびきは「散発性のいびき」です。
寝ているときに普段からかくいびきは「習慣性いびき」といいます。習慣性いびきはさらに、「単純いびき」と「睡眠時無呼吸症候群(SAS)に伴ういびき」に分けられます。睡眠時無呼吸症候群に伴ういびきは、呼吸量の減少や脳の覚醒反応が起きるなど、就寝中にもかかわらず体への大きな負担を強いる危険ないびきです。
いびきをかく原因
いびきがうるさいお父さんの鼻をつまむシーン。いびきは鼻でかくものという誤解を与えかねませんね。実際に漢字でも「鼾」と書きますから鼻の不調がいびきになると考えられがちですが、実際に音を出しているのは上気道の粘膜です。上気道が何らかの原因で狭くなると、呼吸によって空気が通過するたびに粘膜が震えていびきとなります。
多くの人は仰向けに寝たときにいびきをかきます。これは軟口蓋(口腔を鼻腔と隔てる壁)や舌根(舌のつけ根)が重力によって落ち込んで、上気道を狭めるためです。
寝ているときには体中の筋肉が緩んでリラックスした状態になっているため、上気道回りの筋肉も緩んでいて重力の影響を受けやすいためです。ですので、横向きに寝ているといびきが出なかったり和らいだりすることもあります。
電車で座って首をうなだれて寝ている人はほとんどいびきをかきませんね。でも上を向いて口を開けている人ではいびきをかいている人もいますね。これも同じ理屈ですが、また、口を開けて呼吸をしていると軟口蓋が落ち込みやすくなり、よりいびきをかきやすくなります。
いびきをかきやすい人
いびきをかく日本人は男性で24%、女性で10%という調査結果があります。ただ、年齢が上がるにつれいびきをかきやすくなるため、高齢女性では半数の人がいびきをかくようになるともいわれています。
いびきは、生まれながらの骨格の特徴や年齢による筋力の衰えが大きく影響していると考えられていますが、生活習慣も大きく関与しているといわれています。
骨格などの特徴
上気道が狭くなりやすい人は、以下のような見た目の特徴が見られます。
- 首が太く、短い
- 下あごが小さく、後退している
- 口蓋垂(のどちんこ)が長い
- 舌が大きい
- 鼻が曲がっている(鼻中隔湾曲症)
どのケースでも、空気の通り道である上気道が塞がりやすいということですが、このような身体的特徴があれば必ずいびきをかくというわけではありません。
生活習慣
- 肥満傾向がある
- 仰向けで寝る
- 口呼吸である
- 鼻づまりなど鼻の症状がある
- ストレスや疲れがたまっている
- 習慣的にアルコールを飲んでいる
とくに働き盛りの30歳代以降、忙しさから食事が不規則になって運動不足も重なったりすると、腹囲が大きくなり始めるなど急速に体型が変わることもあります。それとともにいびきをかき始めるケースもあります。
アルコール、とくに寝酒はのど周辺の筋肉を弛緩させる効果があるため、就寝時の生理的弛緩と相俟って、上気道周辺組織が落ち込みやすくなります。
いびきをかく人の多くが口呼吸です。鼻に呼吸をしづらい症状がある(鼻炎による鼻づまり、鼻中隔湾曲症など)にはまず鼻の治療をしましょう。お子さんの場合、成長ホルモンの分泌にも関わってきますので、早めの治療が大切です。
いびきの治療
耳鼻科的検査
いびきの治療は鼻の症状の有無を確認することから始めます。いびきの原因が鼻にある場合には鼻疾患の治療を優先します。これによっていびきが改善することがあります。
いびきの原因となる代表的な鼻疾患には、鼻中隔弯曲症、花粉症などのアレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎などがあります。
生活習慣の改善
睡眠時の姿勢
もっとも簡単に取り組めるのが、睡眠時の姿勢を工夫することです。仰向けで寝ている場合には、周囲の組織が重力で上気道を狭めないように横向きで寝るだけで、いびきを改善することが期待できます。寝姿勢は習慣ですからすぐに横向きで寝るのは難しいかもしれませんが、抱き枕などを利用するなど工夫をしてみましょう。横向きになりやすい枕などもあります。
寝酒を控える
アルコールによって上気道周辺の筋肉がより緩み、いびきが生じる環境に近づくリスクが高まります。できるだけ寝酒や深酒は控えるようにしましょう。
適正体重を維持する
首やのどの周辺、上気道の壁に脂肪がつくようになると、普段の状態から上気道が狭まっていることになります。すると重力やアルコールの影響を受けやすくなり、いびきをかきやすい体質になります。適切な食事と適度な運動で適正体重を維持しましょうこれは、生活習慣病の予防にもつながります。
禁煙
禁煙しましょう。タバコの刺激で上気道の粘膜が炎症を繰り返し、傷ついたりむくんだりして気道を狭くします。また、日常的に炎症続くことで気道壁が厚くなって気道が狭くなります。
マウスピース治療
かみ合わせることで下あごを前方に固定するマウスピースを着用し、狭くなった上気道を広げます。就寝時に装着して寝ます。
CPAP療法
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure:シーパップ)は日本語では「経鼻的持続陽圧呼吸療法」と呼ばれます。睡眠時に鼻に装着したマスクとエアチューブで上気道に空気を送り続けて気道を開いたままにしておく装置を使う治療法です。いびきの治療だけでなく、欧米や日本で睡眠時無呼吸症候群の閉塞性タイプの治療ではもっとも普及した治療法です。
きちんとマスクを装着できていれば眠ることに問題はないといわれており、違和感があるような場合には医師に相談してフィッティングをやり直すことで改善します。
装置は医療機関からレンタルされますので、もちろん自宅で使用できます。保守管理や消耗品などの補充も医療機関や保守会社が行います。ただ、毎日装着して眠る機器ですからマスクやエアチューブを清潔に保つお手入れは必要です。
外科的手術
アデノイド(咽頭扁桃)肥大や口蓋扁桃肥大の結果、上気道が狭まっているのであれば、これを摘出することで効果が期待できます。
軟口蓋(口腔を鼻腔と隔てる壁。真ん中奥に口蓋垂〈のどちんこ〉がある)の一部を切除するUPPPという手術もありますが、治療効果が不確かな上、数年後には治療部位の傷跡によって症状が再発することがあります。
海外では、上気道を拡げる目的で上あごや下あごを拡げる手術もあるようです。
ナステント
就寝前に鼻にシリコンチューブを自分で挿入し就寝中の鼻腔および上咽頭の気道を確保する方法です。市販のものですが、使用には耳鼻咽喉科医による同意書が必要です。