睡眠時無呼吸症候群の合併症
休むべき睡眠時間に、脳も体も十分に休むことができないのが睡眠時無呼吸症候群です。普段の生活でも疲労が蓄積してくれば体にさまざまな不具合が出てくるように、慢性的な睡眠不足、睡眠の質の低下によって多くの不調、とくに生活習慣病関連の合併症があらわれます。
おもな合併症としては薬剤(治療)抵抗性高血圧(83%)、心不全(51%)、不整脈(49%)、高血圧(37%)、冠動脈疾患(31%)、糖尿病(23%)などが見られます。このように睡眠時無呼吸症候群は高血圧、心臓病、脳卒中、糖尿病という命にかかわるような病気と密接に関連していることがわかってきています。
どういうしくみで、睡眠時無呼吸症候群がこうした重篤な病気を引き起こすのかはまだわかっていません。ただ、間欠的低酸素血症、睡眠の分断による交感神経の亢進の2つが関与していると考えられています。
間欠的低酸素血症とは、睡眠時無呼吸症候群によって「無呼吸→低酸素→呼吸再開→酸素正常」という状態が繰り返されることです。これによって血管内皮細胞が障害され、体内の炎症が引き起こされると考えられています。また、間欠的低酸素血症は脳のはたらきや認知機能に影響を及ぼすという研究もあります。
睡眠の分断による交感神経の亢進とは、無呼吸状態から呼吸を回復させるために、睡眠時は副交感神経と交替していて優位ではない交感神経が優位になることです。体は寝ているのに、脳だけ覚醒している状態で、睡眠が分断されてしまいます。本来優位ではない交感神経の活性が高まることで呼吸や循環、内分泌機能などの調節機能のバランスが崩れ、ホルモン分泌の異常や体内の炎症が引き起こされると考えられています。
高血圧
おもな合併症の第1位に薬剤(治療)抵抗性高血圧が上がっていました。これは薬剤の服用ではなかなか目標値にまで血圧を下げられない高血圧で、睡眠時無呼吸症候群の患者さんに非常に高い割合で合併します。
閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)では無呼吸状態が間欠的に続いて、その度に交感神経が呼吸を再開させるため、交感神経が優位な状態が持続します。睡眠時に交感神経が亢進することで血圧が上がります。
睡眠時無呼吸症候群は二次性高血圧の原因疾患の一つとされています。二次性高血圧とは、別の病気が原因で起こる高血圧で、原因疾患があるために降圧剤が効きにくいのが特徴です。睡眠時無呼吸症候群に伴う高血圧では、睡眠時無呼吸症候群を治療することで高血圧の改善も望めます。
心臓病
不整脈
不整脈とは心臓の鼓動が不規則になることで、異常に速くなる頻脈、遅くなる徐脈なども含まれます。動悸、息切れ、疲労感を伴う心房細動も不整脈の一つです。心房が十分に収縮できず心不全を引き起こしたり、血栓ができて脳梗塞を引き起こしたりします。
心房細動は睡眠時無呼吸症候群(SAS)と関連があることがわかっていて、非SAS患者と比較すると、SAS患者は2倍、重症SAS患者では4倍も心房細動の発生頻度が高いことが報告されています。
虚血性心疾患
虚血性心疾患とは、冠動脈が狭くなったり詰まったりして心筋に十分な血液が届かなくなる状態で、狭心症や心筋梗塞などが代表的な疾患です。冠動脈に障害を起こす原因が動脈硬化です。睡眠時無呼吸症候群は重症になるほど動脈硬化を進行させることがわかっています。睡眠時無呼吸症候群による間欠的低酸素血症が関与していると考えられています。また、睡眠時無呼吸症候群は血管を詰まらせる血栓をできやすくしたり、冠動脈の痙攣を引き起こしたりすることにも関与しているといわれています。
脳卒中
脳の血管がつまる脳梗塞、血管が破れて出血する脳出血が起きた病態が脳卒中で、脳に損傷を受けて、言語障害や麻痺などの後遺症に悩まされる疾患です。重症の睡眠時無呼吸症候群患者では脳卒中の発症リスクが高くなるといわれています。
糖尿病
睡眠時無呼吸症候群は糖尿病の発症リスクを高めるといわれています。詳細はわかっていませんが、睡眠時無呼吸症候群による間欠的低酸素血症と睡眠の分断による交感神経の亢進が糖代謝の異常に関与するのではないかと考えられています。これらによってインスリン抵抗性が悪化し、糖尿病の発症リスクを高めます。